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4話 絶叫

last update Date de publication: 2026-06-07 16:51:30

及川は私を見つめ、頷く。

「お嬢様、生き延びてください。それもあなたのお母様の最後の願いなのですから」

そう言われて私はポロポロ落ちる涙を拭い、聞く。

「私は、何をすれば?」

及川が簡潔に言う。

「時間がありません。今すぐにお嬢様のお召しになっている服とネックレスを外して頂けますか」

及川はそう言って自分の足元にある遺体袋を見る。

「この遺体にお嬢様の服を着せ、ネックレスをつけさせます。そうすればお嬢様は死んだ事になり、万が一にも生きている事が知られたとしても、その時にはお嬢様はここから遠い地へ離れている事でしょう」

及川は私に紙袋を渡す。

「着替えは中に」

その紙袋を受け取る。

漆黒のワンピースに着替え、ネックレスを外し、及川に渡す。このネックレスは私にとって特別だったものだ。けれど今はもう、その未練さえ、断ち切る覚悟が決まっている。及川はそれを受け取り、遺体袋に近付く。

「お嬢様はご覧にならない方がよろしいかと」

及川にそう言われて私は視線を外す。

不意に私たちが居る部屋から離れた場所から衣擦れの音が聞こえる。

「お嬢様、急ぎましょう!」

及川の声は張り詰めている。及川は私の腕を掴むと、引っ張り歩き出す。その足取りが徐々に早くなる。私の身体は痛みで悲鳴を上げていた。それでもそれを必死で堪え、よろめきながら及川の急ぎ足の歩調に合わせる。ほとんど引き摺られるようにして廊下を抜ける。

施設を出たその瞬間 ――

ドオオーーーンっ!!!

背後で爆発音がして爆風を浴びる。次の瞬間には灼熱の衝撃波が破片を巻き上げ、背中から私たちに襲い掛かる。私は本能的に身を伏せ、及川がそんな私を庇ってくれる。数歩前へ、この衝撃波と灼熱から逃げる為に、また一歩前へ、駆け出す。

振り返る。

建物全体が既に烈火の中で。その形を崩している。歪んだ鉄骨と吹き飛ばされ、崩した建物。その建物の全ての窓から、いや、窓だったものからオレンジ色の炎が噴き出し、全てを煉火が飲み込んで行く。

◇◇◇

「何だと?!」

知らせを聞いた私は椅子から立ち上がる。

「それは本当か?」

そう聞くと知らせを持って来た者が言う。

「間違いありません」

そう言ってタブレットを差し出す。そこに映されたのは燃え上がるあの施設。

「行くぞ!」

そう言って慌てて屋敷を出る。

辿り着いた先は私設療養所。

炎は最初程の勢いは無くなったのか、パチパチと小さく何かが燃えている程度だ。熱気は依然として私の肌を刺した。空気中には焦げた匂いが充満し、息をするのも苦しい。

建物の屋根は吹き飛んだのかその場所はぽっかりと空き、鉄筋コンクリートが剥き出しになっている。燃焼熱のせいか、鉄筋はねじ曲がり、残り火が所々で暗く赤い光を放っている。

消防士たちはまだ建物への放水を続けている。白い蒸気と黒い煙が絡み合いながら夜空へと立ち上っている。

「美緒、は……? 美緒はどうした!」

そう怒鳴る。無意識に唇が震える。

そう怒鳴ったところで誰の目にも明らかだった。ここまで焼けてしまっては、誰かがここで生き延びている筈は無い。

「お嬢様の遺体らしきものを既に発見しております」

遺体袋が私の前にドサッと置かれる。作業員がその袋のジッパーを開ける。中には真っ黒に焦げた遺体があった。

「……嘘だ、違う……これは美緒じゃない……」

ヨロヨロと前に進み、その焼け焦げた“それ”の傍に跪く。

焼け焦げたそれの首元には ――

見覚えのあるネックレスの残骸がある。

美緒が付けていたお気に入りのネックレスの燃えカスがある。桜モチーフのペンダントトップは焦げていてもその形を残している。それは私が美緒の十歳の誕生日にこの手で付けてやったものだった。形だけのそれを見ても、私には分かる。

(……違う、これは美緒じゃない……美緒は療養所で……)

「あああああーーーー!!!」

声が漏れ出る。燃え残ったそれに触る事も出来ない。尻もちをつき、後退る。

たった三カ月だ……三カ月したら迎えに行くと、そう言ったのに……

ただただ私は反省して欲しかっただけだったんだ……

どうして……どうして……

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